スパイ針

「ちょっと相談に乗ってください」とアドバイスを求められることがあるが、女性からのこの手の相談にはかなり警戒する。いただいた情報をもとに第3者の観点で客観的にアドバスや意見を言うと、たいていの女性は怒るか気分を害することが多いからである。

「苦労多くして報われず、理不尽に怒られる」という過去の苦い経験を踏まえて、僕もやっと世渡りのコツを覚えたのだ。たとえば、悩み多きある女性が「AにしょうかBでいくか迷っています。どうしましょ」と相談してきたとする。

僕はまず最初にわざとAとB両方に極端にふれて相手の反応を探る。するとかならずその振れ幅の中で「おいおい。だいじょうぶか」と思うほど異常に激しく反応する点がある。

「そうは言いますけれど」とAを選択したときのリスクを憤然と述べる方。僕がAを取るべき論理的理由をあげると、「実はこんなことがあるの」と突然、いままで隠していた事実を披露し始める方。(だったらもっと早く言えよと内心では憤慨するが)

かと思えば、「Bをとるべきなのですね。もっと理由を詳しく」と何か「好物」でも催促するように身をのりだす方。必ずあるのだ。この点を素早く見つけることが大切である。僕はこの手法を「スパイ針」と呼んでいる。

ほとんどの車にはエンジンの回転数に従って針が振れる「タコメーター」がついている。現代の車はデジタル表示の味気ないのが多い。昔の英国のスポーツカーにはもう一本「赤い針」がついていた。英語でspy needle「スパイ針」という。

                                                   Smiths rev counter with spy needle

これは回転数を指す針に連動して動く別の針で、上昇方向にしか動かず最大回転数で止まる。つまりエンジンを最大何回転まで回したかをスパイする針である。

僕はスパイ針を大きく振らせて彼女の気持ちが最大に傾いている点をまずみつけるのだ。女性の場合、自分にとって大切なことを他人と共有しておきながら「私は決めかねています。頭真っ白です」とアドバイスを求めることなどめったにない。「心中」で生き残るのも大体「死に切れませんでした」という情けない男の方が多い。女性は潔いのだ。

つまり、女性が人にアドバイスを求める時は自分でどちらを選択するかをすでに決めている。「だったら最初から聞くなよ」とも思うが、そこはデリケートな女心。他者から背中を一押ししてもらいたいのである。

「女性は客観的な判断など決して求めない」。これに気づくのに20年ほど要した。そんなわけで、僕の最近のアドバイスはもっぱら「背中の一押し」になっている。何人かは崖下に落ちたかもしれないが。

しかし実のところ女性はもっと面妖である。本心は「B」だがあえて「A」を選び「B」の道を引き出す場合もある。こうなるともはや旧式「スパイ針」は役に立たない。さあどうする。

それはまた別の話。

rocketboy2 について

合成化学と薬化学と天然物化学を生業にし、それらを基盤にしたビジネスを展開している。
カテゴリー: Uncategorized タグ: , , , パーマリンク

スパイ針 への1件のフィードバック

  1. Masahiro Yonezu より:

    自分の心の中では既に答えは決まっていて、後は誰かにそれを後押ししてもらいたい、って言うケースも多いと思います。でも「きゃつら(♀)」はなぁ・・・

コメントを残す