ソウルの女王

ソウルの女王と言われた、アレサ・フランクリンがなくなった。数々の素晴らしい楽曲があるけれど、僕が一番に思いだすのは、映画「ブルース・ブラザース」の中で、ソウルフード・カフェでジェイクとエルウッドがマット・マーフィーをバンドに連れ戻そうとしたとき、夫に対し、妻のアレサ・フランクリンが猛抗議して[Think!]を歌うシーン大。今でいうフラッシュ・モブにも似た名シーン。アレサの歌唱力とリズム感には圧倒された。

 

 

「ブルース・ブラザース」を成功させた立役者の一人である。奇しくも、夫役のギタリスト、マット・マーフィーも6月に亡くなった。二人のレジェンドに合掌。

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ワイン考

開高健の「美食文化論」の中の名言の一つに「ワインであろうと、コニャックであろうと、ウイスキーであろうと、何であれ、その良否を知る一つの方法は、日ごろから安物を飲み続けることである。」というのがある。

僕はこの教えに従い、20余年間、米国で毎日、安物ワインを飲み続けてきた。人間の味覚とは不思議なもので、毎日飲んでいるとやがて慣れ、いつのまにかそれがスタンダードになる。言い方を変えると、人間の舌は記憶にある底辺の品質に標準化しようとする機能があるようだ。これは生存するための知恵のひとつかもしれない。そうでもしなければ、たまたま飲んだ高級ワインの味がいつまでも忘れられなくなりストレスがたまり日常生活に支障をきたしかねないことになる。

安物で標準化していれば、たまに飲むうまいワインの味の奥深さにすぐ気づくわけで良否の判断をしやすいというわけだ。そんなわけで、僕が導き出したワイン価格と味の経験則はこうだ。「高いワインが必ずしもうまいとは限らないが、安いワインは絶対にうまくない」。こう書くと、誰しも、「それではうまい、まずいの境界はどのあたりなの」と思うだろう。私の経験からいくと、それは産地で異なる。フランスの赤ワインは20ドル前後。アメリカ、イタリアは15ドル近辺。1ドル110円計算である。だが、このクラスの輸入海外ワインは日本では倍掛けが当たり前なのでけっこう高い価格帯になる。

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例えば、米国では14ドルで買えるイタリアの「アンティノーリ」は日本では3000円もするのでもはや毎日飲めるワインではなくなる。従ってこの数字は日本国内ではあてはならないかもしれない。さらに国産ワインの愛好家の方には何とも失礼な言い方だが、「手頃な値段の国産赤ワインは例外なくうまくない」。手がでないほど高価な国産ワインは飲むこともないので国産ワインに関しては正しい評価ができないが、私の拙い経験では国産ワインは味と価格にバランスが取れていないように思う。チリや南アフリカのような新興ワイン産地と伍していくにはまだまだ時間がかかりそうだ。

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開高健

来年には没後30年を迎える開高健は数多くの名句、警句、冗句をその作品の中にちりばめており、「開高健・名言辞典」なる本まで出版されているほどだ。僕はその中でも「心に通ずる道は胃を通る」という言葉が気に入っている。人間のありようと食や酒の関係を鋭く見透した開高ならではの言葉だと思う。というわけで、まだ未読のグルメ本三冊を入手した。出張のお供が増えた。

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あまり知られていないが、開高がこのように傑作食エッセイをたくさん残せたのは妻から離れたかったからだといわれている。もともと、子供ができたため、激しく結婚を迫られて結婚したということで、妻である詩人、牧洋子とはかなりの確執があったようだ。

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それが開高を家庭に落ち着かせず、放浪の旅をさせる理由のひとつだったのかもしれない。開高が死ぬ間際、妻にかけた最期の言葉が「この鬼!」だったそうだからうかがい知れる。牧洋子が悪妻であったかどうかはわからないが、世の中には家庭に恵まれなかったことが「ばね」になって素晴らしい作品や発見をした作家や画家や科学者は少なくない。開高もその一人なのかもしれない。妻の牧洋子だけでなく、一人娘のエッセイスト、開高道子も父親とは微妙な関係であった。そして41歳の若さで鉄道自殺をとげている。開高の洒脱な文章の裏にある複雑な家族ドラマを思うとちょっと切なくなる。

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知と智

吉田健一という文芸評論家がいた。宰相、吉田茂の息子である。無類の美食家かつ酒好きであったらしく、食や酒に関するエッセイを多数書いている。彼の著書『私の食物誌』の中に以下のような一文がある。

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「そして酒についてそうして教わるのよりも、やはり教わりながらも飲み続ける方が大事であるのは言うまでもないことで、途中で止めるならば酒について無智であるのと同じことになる」

恥ずかしながら、僕はこの本で初めて「無智」という言葉を知った。はじめは「無知」とたいしてかわらんと思ったが、吉田健一がいろいろなところにあえて「無知」ではなく「無智」という言葉を使っているので調べてみた。すると智と知には大きな違いがあることがわかった。智は単に知の下に白と思いがちだが、白ではなく曰くなのだ。曰くは理由、わけ、事情という意味がある。智とは単に物事を知るのではなくその本質や意味を理解するという意になる。つまり「無智」とは物事を知っていてもその本質を理解していない時に用いる。上っ面は知っていてもその本質を理解していないわけだ。最近、スマホが当たり前になり、情報はどこにいても一瞬の間に入手できる。無知な方は少なくなったはずだ。しかし、無知の減少とは反比例して無智の輩は増大してきているように思える。一過性のスマホ画面と書物からの情報入手法の差が影響しているように思えてならない。

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孤独のグルメ38

横浜中華街に「華正樓」という老舗がある。ここの名物は肉まん。特徴は皮が極めて柔らかいこと。そしてその「あん」のうまさである。したがって。この肉まんを冷凍してはそのうまさが半減する。基本は購入後冷凍せずに食べることなのだ。うまい食べ方を紹介する。

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まず、箱から出して「せいろ」で再度10分ほど蒸す。

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その間に、醤油、からし、ごま油、ラー油を用意してよく混ぜておく。

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蒸しあがったら、小皿におき、3分の1のところに包丁で切れ目を入れる。

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破れやすい皮を注意深く開き、中の「あん」をとりだし混合した調味液に両面をよく浸す。

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お好みでラー湯やからしの量を加減する。そして静かにもとに戻し蓋をする。

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何事もなかったようなこの白い肉まんは、実はパンチのきいた、「からしラー油ゴマ油肉まん」に変身しているのだ。そして両手でしっかり握って一気にかぶりつく。口の中に幸せが広がる。その一瞬の湧き上がる快楽をビールですかさずリセット。あとは食べ過ぎに注意しながら、この孤高の行為を繰り返す。

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ギムレットには早すぎる

近くの酒屋でプリマスジンを見つけたので、ギムレットを飲むためライムジュースも買った。通常のレシピではドライジンにライムジュースを加えてシェークすることになっている。だが、チャンドラーのハードボイルド小説「長いお別れ」でフイリップマーローはプリマスジンにローズ社のコーディアルライムという甘いライムジュースを入れステアして飲んでいた。プリマスジンはイングランド南西部、イギリス海軍の軍港であるプリマスでつくられる香りが強く、ほのかに甘いジンである。

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僕は若い頃、このギムレットなるものに憧れた。ローズ社のコーディアルライムなどは僕の住む北の果てでは手に入らなかった。僕は行きつけのバーでギムレットを注文し「プリマスジンでお願いします。ステアして」なんて気取っていうのだが。

カウンター奥のバーテンダーは困惑気味で「つまりはジンライムだろうが」と言いたそうな顔をして、たいていサントリーのドライジンで代用された。

それでも口に含むと一瞬マーローになった気分。「ギムレットには早すぎる」という名セリフが頭の中を駆け回った。本物のギムレットなど飲んだこともない若造にとって、正直なところ、サントリーのドライジンを明治屋のくそ甘いライムジュースで割ったギムレットもどきはちっともうまくはなかった。背伸びしていた時代だった。今となっては懐かしいが。

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応談

中古車屋の販売車両の価格欄に応談と書かれてあるのを見たことがあると思う。最近、ほとんどの旧車クラシックカーの価格が「応談」になっている。販売するために掲載しておきながら売値を示さないとはどういうことなのか。

応談とは本来「価格は相談に応じるという意味」になるが、中古車の場合は相談に応じるという意味では決してない。他社との競争があるから、それに応じて価格を上下させるためだ。だったら応談ではなく。「価格はお電話で」ぐらいにするべきではないか。ただでさえボッタくりの中古車屋が多い中、こんなことをやっているから日本ではいつまでも適正な市場価格が出ない。そして旧車が投資対象になるのだ。

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アメリカには毎年更新されるブルーブックという車の価格データがある。どんなクラシックカーにも、車の維持状態によって市場価格幅が決められている。消費者はそのデータを見て適正価格を知ることができるのである。中身はジャンクなのに見せかけの赤い「べべ」を着せて売る日本の悪徳中古車屋はもうたくさんである。

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