バタークリーム・ケーキ

人には誰でもあまり大きな声では言えない変わった嗜好があるものだが、僕は不二家のバタークリームのクリスマスケーキが大好きである。子供の頃、クリスマスイブの朝、家のガレージにおいてあるケーキの箱をこっそり開け、箱の端っこや上についているバタークリームを手でそっとすくって食べた時の後ろめたさとうまさはまだ記憶に残っている。

さらに、2-3日経過して表面のクリームが硬くなってしまった状態のクリームを少しずつ崩して口に中で溶かすのも大好きで、これがもう至福の時間だった。だから、社会に出てからは、わざと25日が過ぎて売れ残り、やや硬くなり、半額になったクリスマスケーキを買って食べたものだった。しかし、バターの高騰と健康志向のせいだろうか、米国在住している間に、日本でのバタークリームケーキは市場の地位を失い、代わりに甘さを抑えた、上品な生クリームケーキが全盛になってしまった。

ついでながら、米国の庶民の間ではまだまだ巨大かつ毒々しい原色でものすごく甘いバタークリームケーキが主流である。

僕にとっては口に入れるとすぐ消える生クリームの触感は、ただただ情けなく、はかないだけだった。加えて、ケーキ生地も生クリームにあわせるかのように、これまた柔らかいシフォシフォンケーキや「ふにゃっ」としたパウンドケーキ。情けなさの2重奏は食べると悲しくなるのである。

そんなわけで、今年のクリスマスも僕は「ペコちゃん」が微笑む昭和レトロの不二家のバタークリームケーキを食べる。

 

rocketboy2 について

合成化学と薬化学と天然物化学を生業にし、それらを基盤にしたビジネスを展開している。
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