孤独のグルメ 18 後編

「住めば都」という言葉もある。ストレスを感じながらも、週に2回は飲みに言っていたものだから、やはり行きつけができる。会社の近くに「M」という居酒屋があった。普通の一軒屋をそのまま店にしたらしく、襖つづきの3部屋しかない。窓もない暗い飲み屋で、土間のカウンターで初老の夫婦が切り盛りしていた。妻はおそろしく無愛想でほとんど口を開かない。注文を取りにきても言葉ひとつない。

だが、何度も通ううちに、少しづつ心を開いてくれたらしく、やがて何もいわなくても、良く冷えた「天狗舞」と「菊姫」の一升瓶がさっとでてくるようになった。

この店にはビールに合う「あて」が2つあった。「山いもステーキ」と「キャべコン」である。キャベコンとは、キャベツとコンビーフをいためたものなのだが、ビールにことのほか良くあった。僕は座敷に座ったら、「とりあえず、キャべコンとビール」と言って注文していた。

突然、これがムショウに食いたくなってしまったのである。

しかし、この20年間の米国生活で日本の「コンビーフ」に出会ったことはない。こちらのコーンビーフは薄くスライスした牛肉を何枚も重ねたもののことをいう。サンドイッチにはさまっている。独特の台形の形をして「くるくる」とねじをまわして開ける「ノザキの缶詰コンビーフ」はどこにも見当たらない。

その昔「傷だらけの天使」というテレビ・ドラマの オープニング・シーンで、ショーケンがバイクのゴーグルをつけて、胸に新聞紙を広げ、トマトや缶が半分ついたままの「コンビーフ」をカッコ良くかじって、牛乳をがぶ飲みしていたあれだ。

(昔、よく真似をしたが、牛乳とコンビーフは結構いける)

そこで今回、日本に行ったついでに入手してきた。少し小振りになっていたが、まさに「ノザキのコンビーフ」である。

作り方はいたって簡単。まず新鮮なキャベツの硬いところを中心に2センチ角ぐらいに切り、水を切っておく。ピーナッツ油を少し入れて中火でキャベツを炒める。そして少ししんなりしてきたらコンビーフを豪快にぶち込んで炒めるだけ。

のはずであったが、少し様子が違う。昔のコンビーフはすぐに糸状にほぐれたのに、今回のノザキのコンビーフはいつまでも「ごろごろ」していてほぐれない。肉以外に「つなぎ」がはいっているのか?混ぜ物をして実質的な値上げをしているのか?疑問がわいた。

しかも、塩味がほとんどついていない。昔のコンビーフではない。昔はコンビーフの塩味だけで食した記憶があった。そこで今回はやむをえず塩を入れた。そして最後の「しめ」にSBの粉こしょうを忘れてはいけない。「キャべコン」の完成である。

やはりシェラネバダのエール・ビールでやっつけるのがベストである。20年ぶりの「コンビーフ」には少しがっかりしたが、それでもうまい。その昔、薄暗い座敷で、仲間と飲みあかした、あの頃の情景が蘇ってきた。食べ物はすぐに自分を過去に引き戻してくれる「妙薬」なのだ。

rocketboy2 について

合成化学と薬化学と天然物化学を生業にし、それらを基盤にしたビジネスを展開している。
カテゴリー: Uncategorized タグ: , , パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中