甘い生活

米国の寿司ブームもすっかり定着した観がある。日本食レストランでは米国人が器用に箸を使う姿が多くみられる。またスーパーマーケットの寿司コーナーも昼過ぎには売り切れがめずらしくなくなってきた。しかし僕には多くの米国人が寿司と一緒にコーラを飲む習慣には我慢がならない。彼らは緑茶にも平気で砂糖を入れる。子供の頃、お釈迦様のお祝いの花祭りで飲んだ甘茶そっくりである。豆乳ですらこちらはチョコレートとバニラ味が主流でものすごく甘い。

米国の歌手エルビスプレスリーが42歳の若さで突然心臓発作でなくなってからもう30年以上たつが、今でも復刻版のCDや伝記本はベストセラーになり、テネシー州メンフイスの邸宅には毎年、ホワイトハウスよりも多くの観光客が訪づれるのだ。プレスリーの写真を見て感極まって失神する女性ファンのために、邸宅には酸素ボンベまで備えつけられているとか。その国民的英雄ぶりは尋常ではない。

彼は1975年ころからものすごい肥満でマスコミから遠ざかっていた。『午前4時のドーナツ病』という、どうしてもやめることのできない悲しい習慣があったからだ。冷蔵庫においておく甘いドーナツを我慢できなく明け方に食べてしまう中毒である。このドーナツが肥満を助長させていたというお手伝いさんのショッキングな証言が明るみにでたことで多くのファンは愕然とした。しかし当時の日本では『どうしてドーナツが冷蔵庫にあるの?』と思った人たちが多かったはずだ。僕もそのひとりだった。1970年代後半、日本にドーナツ屋などなかったのだから。

しかし、米国に移り住んでみて長年の謎が氷解した。米国にはいたるところに白地にオレンジとピンクの文字のドーナツ屋がある。ダンキンドーナツだ。朝は7時から営業していて、朝食時間になると、ドーナツと大きな紙コップ入りのコーヒーを求めて長蛇の列ができる。そして、仕事前の朝のひととき、ほのかにコーヒー味のする茶色い湯を飲みながら甘いドーナツをほおばる。昔からこれが米国人の典型的な朝食だったことを知った。かくして平均的アメリカ人は年間に実に130キロの砂糖を消費しているのである。

砂糖がアルコールとおなじような心理的にも生化学的な機能にも非常に大きな影響を及ぼす事は余り知られていない。早い話が砂糖の多量摂取は中毒症状を示すのである。プレスリーが陥ったドーナツ地獄もこの砂糖中毒に他ならない。最近の研究で米国の3分の1の女性がチョコレートから離れられないと指摘されている。これこそまさに砂糖中毒の典型である。砂糖が米国民に及ぼしている影響は肥満や心臓疾患、糖尿病といった生活習慣病ばかりではない。

米国の子供達に多動性注意欠陥障害(ADHD)という奇妙な病気が急増してきている。これは今までの定義で言う「精神障害」とは違った、子供の日頃の言動に簡する問題である。医師たちは砂糖の摂取量とこの障害の関係を疑いはじめている。砂糖の消費とADHDの関係を見ると、消費が多いほど興奮しやすく、注意が散漫な傾向があることが臨床的にも確かめられているからだ。米国の医師や親達は炭酸飲料やキャンディーに含まれている砂糖を最小限に抑えるように子供達に指導するようになってきた。このように長期にわたる砂糖大量摂取からくる怒り、いらいら、興奮、うつ、不安、疲労などが社会生活、家庭生活に多大な影響をおよぼすことは必至であり、やがてもうひとつの生活習慣病になることを危惧する医師も少なくない。

戦後、米国からの文化習慣をやみくもに受け入れてきた日本人がただひとつどうしても受け入れ難かったのがこのドーナツ朝食である。昔から甘いものと3度の食事を明確に分離する伝統的な食習慣が結果としてアメリカ人が陥っている砂糖地獄から日本人を救った。しかし、ごく最近、日本の老舗製薬会社が将来日本での市場を見越してビバンセというAGHD医薬品のトップブランドをライセンスしたというニュースが報じられた。統計ではADHD治療医薬品世界市場は約4000億円であり、毎年増加を続けているという。日本の子供たちにも砂糖地獄が迫っているのかもしれない。(2011/11/24)

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