モンスター商品

科学とビジネスの融合がときにとんでもない商品を生み出すことがある。6年程前、アメリカを象徴するような商品が発売された。”オキシジェン8”という商品だ。単なるミネラルウオ-タなのだが、酸素が通常より8倍過剰に含んでいるという。またたくまに若者たちに浸透し爆発的に売れはじめた。ビーチにねそべる若者たちがこの酸素入りの水を飲んでいる写真がインターネットを通じて流され、健康水というイメージで宣伝されている。

ところが最近、これとは180度異なるる水素還元水なるものが日本で販売されブームになっているという。これを飲むとコレステロールもさがり、肥満解消、美容にも良い。まさにマジックウオーターとのことである。

2ヶ月ほど前、何頭もの競走馬を保有する日本で高名な馬主さんのところに僕の会社のサプリ製品を紹介することになった。気乗りはしなかったが、忙しい中せっかく時間をとっていただいたからということで大阪のオフイスを訪問した。案の定、いかにビジネスを成功させるかという持論を披露されたあげく、「そんなサプリ売ったって金儲けはできへん」とー蹴された。それでも彼の経験に基づく持論は多いに参考になったので来たかいはあったと自分に言い聞かせのだが。最後にこけた。

彼は「いいですか。こういうすぐ効くものを開発せにゃだめなんだ」と言って秘書に冷蔵庫からださせたのがアルミパックに入った水素水なるものであった。「これは実によく効く。これを飲んでから身体の調子が良くてね」と太鼓腹を揺らして笑った。

本人が効果あるといっているのだから別に聞き流せば良いのだが。僕も科学を生業にする一研究者として、こればっかりは笑って見過ごせなかったので、ひとことだけ言わせてもらった。「水は安定なので水素ふきこんだだけでは還元されませんし、水素は胃腸からは吸収されません。おそらく効果はプラセボだと思います。」彼は激怒した。「あんたがなんて言おと、俺には効くんだ。」僕たちは顧客にこれぐらい信頼されるものを作らねばだめであることを再確認してオフイスを後にした。

まず簡単な科学的常識として酸素や水素は基本的に肺でしか吸収されないということを確認せねばならない。酸素や水素が豊富に含まれている水を飲んだところで血中の水素酸素濃度が顕著に増加する事はない。日本ではオキシジェンバーなるものがいっとき流行ったことがある。 疲れた人達に酸素を吸ってリラックスしてもらおうというコンセプトにはもちろん科学的根拠はある。でも水は違う。いくら酸素を水に溶かしても何のメリットもない。酸素は身体に良いので水に入れて飲む。水素は抗酸化力があるから水に入れて飲む。この信じがたいロジックのジャンプはまさに「魚は水中の酸素を摂取しているのだから空気中でもいきていられる」のと同じ次元のご都合主義なのだ。

しかも忘れていけないことは、体内酸素の3から5%がいつも危険な活性酸素に変化する可能性をもっているということだ。わざわざ肺以外の胃や腸の酸素濃度を増加させ活性酸素発生の確率を増加させる必要はどこにあるのだろう。こんな商品は百害あって一利なしである。科学的根拠なく、ただ安易な発想とイメージだけで商品をつくり売ろうとするすさまじい商魂にはただただ驚くばかり。さらに、気をつけなければならない事がもうひとつある。日本のサプリ商品の規則として、有効成分をある量入れたという事実があれば、賞味期限中にその成分がどのくらい残っているかを保証する必要はないのである。つまり、水素や酸素を入れた履歴があればアルミパック中の含量はどうでもよいのである。アルミパックが水素を保持するのに十分かどうかは調べればすぐわかる。まさに理不尽かつ傲慢なモンスター商品である。2011/9/25)

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